大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 昭和28年(行)12号 判決

原告 大山佐十郎

被告 国

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告国が別紙第一目録記載の農地につき、昭和二十二年十月二十日岡山県久米郡神目村農地委員会の定めた買収計画により、昭和二十三年四月二十日岡山県知事の発行した買収令書によつて、昭和二十二年十二月二日なした買収は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、岡山県久米郡神目村農地委員会は原告の所有である別紙第一、二目録記載の土地を自作農創設特別措置法(以下単に自創法と略称する)第三条第一項第二号該当小作地(神目村における在村地主の小作地保有面積は六反歩である)として昭和二十二年十月二十日買収計画を定め、所定の手続を経て岡山県知事は右買収計画に基き、昭和二十二年十二月二日を買収期日とし、昭和二十三年四月二十日買収令書を発行し、これを原告に交付して買収した。

而して右買収によつて原告に残された小作地は別紙第三目録記載の農地合計反別四反三畝九歩となり小作地保有を許された六反歩に不足すること一反六畝二十一歩となつた。然るときは右買収は小作地保有面積を超過する部分即ち一反六畝二十一歩の部分が無効であることとなるが、その無効の部分を特定することができないから結局右買収全部が無効であるといわなければならない。

原告は別紙第二目録記載の土地につき、さきに、「小作地でないのに小作地として買収計画を樹立した違法あり」として岡山地方裁判所の判決により右買収計画の取消を受けたので本訴においては被告国に対して別紙第一目録記載の土地の買収処分の無効確認を求めるものであると陳述した。(立証省略)

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として岡山県久米郡神目村農地委員会が原告主張の土地につき自創法第三条第一項第二号該当農地としてその主張の日買収計画を樹立し、所定の手続を経て岡山県知事が、右計画に基きその主張の日時を買収期日とし、主張の日買収令書を発行し、これを原告に交付して買収したこと。右買収により原告の保有小作地合計面積が四反三畝九歩となり、神目村における在村地主に許された保有小作地面積六反歩に一反六畝二十一歩不足するにいたつたこと。並に原告主張の第二目録記載の土地につき岡山地方裁判所において原告主張の理由により買収計画取消の判決を受けたことはいずれもこれを認める。然しながら在村地主の保有小作地面積を割る所謂超過買収も当然無効の処分ということはできない。即ち本件買収時においては本件農地は自創法第三条第一項第二号に該当し(答弁書中自創法第一条第一項第二号とあるは誤りと認む)神目村農地委員会はその権限に基き自創法所定の手続により買収計画を定め、岡山県農地委員会の計画承認を経て岡山県知事は右計画に基き買収令書を発布し、これを原告に交付して買収したものであるから、その結果保有小作地面積を割る超過買収となつてもそれは単に保有面積計算の認定を誤つたに過ぎない。そのため買収処分が違法であるとしても右の違法は取消し得べき瑕疵に過ぎず処分の当然無効をきたすものではないので原告の請求は棄却さるべきであると陳述した。(立証省略)

理由

岡山県久米郡神目村農地委員会が元原告所有の別紙第一、二目録記載の農地につき自作農創設特別措置法(以下単に自創法と略称する)第三条第一項第二号該当小作地として、昭和二十二年十月二十日買収計画を樹立し、公告縦覧計画承認等所定の手続を経て岡山県知事が右計画に基き、昭和二十二年十二月二日を買収期日とし、昭和二十三年四月二十日買収令書を発布し、これを原告に交付して買収をなしたこと。神目村においては在村地主の保有を許された小作地面積は六反歩であること。右買収の結果原告に残された小作地は別紙第三目録記載の農地合計面積四反三畝九歩となり、小作地保有限度を冒すこと一反六畝二十一歩となつたことは当事者間に争がない。原告は小作地保有限度を割る所謂超過買収は自創法上認められた在村地主の権利を侵害する違法な処分であつて当然無効であると主張し、被告は本件買収時においては本件土地は自創法第三条第一項第二号の該当地であり神目村農地委員会は権限に基き買収計画を定め公告縦覧計画承認等所定の手続を経て岡山県知事は右計画により買収令書を発布し、これを原告に交付して買収手続を完了したものであるから、その結果超過買収となつてもそれは単に小作地保有面積計算の認定を誤つたに過ぎないものでその違法は取消事由たる瑕疵に止まり、処分の当然無効をきたすものではないと抗争するので審究するに、行政処分はその瑕疵が重大且つ外観上明瞭なときはその処分は当然無効であり、瑕疵が重大でないか、重大であつても外観上明瞭でないときは取消し得べきものと解するを相当とする。そもそも所謂超過買収は買収農地と残存小作地との数量的関係において生ずる瑕疵であつて、地区農地委員会並に県知事は夫々国の機関として与えられた一般的権限に基き農地買収計画を樹立し、所定の手続を経て買収処分をなしたものであるが、具体的の場合にその農地買収により残存小作地量が所定の保有量を下回るとき当該買収処分を違法とするものである。而も多数筆同時買収の場合は特定の農地に瑕疵が存するというものでもなく寧ろその綜合の上に存するというべく、又手続面からこれを見れば特定の買収手続に瑕疵が存するというものでもなく寧ろ買収手続全体の上に瑕疵を帯有するというべきである。この点において買収目的土地の固有の性質に基く買収処分の瑕疵と大いに趣きを異にすると思われる。

本件においては買収計画の樹立に際り神目農地委員会が原告の保有小作地面積の計算を誤つたことにより超過買収の結果を招いたものであることは被告の自認するところであり、その超過部分が一反六畝二十一歩であることはさきに述べた通りである。保有小作地の面積の計算を誤ることは買収農地の適格に連なる問題であり買収要件に関するものであるから買収処分の内容にかかわる重大な瑕疵といわなければならないが前段に述べたように所謂超過買収の特質上国の機関として神目農地委員会並に岡山県知事は夫々所定の一般的権限に基き買収計画を樹立して買収処分をなしたものであり、買収手続の過程においては計画樹立当時の保有量計算の過誤は必ずしも明瞭に表面化せず、ために右の違算は看過せられて超過買収の結果となり買収手続全体に違法性を帯有せしむるに至つたものであるからその瑕疵は必ずしも外観上明瞭であるとはいい得ない。従つて保有小作地面積の計算の過誤に基く超過買収の瑕疵は農地委員会乃至知事がこれを知りながら、敢てなした等特段の事情のない限りその瑕疵は重大ではあるが外観上明瞭であるとはいえず処分の取消事由とはなるが当然無効の事由とは解し難い。

よつて本件超過買収処分の無効確認を求める原告の本訴請求はこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条の規定を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 林歓一 藤村辻夫 川端浩)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例